本来なら2人でタクシーを降りるはずだった。

 彼女のベットで過ごす濃密な夜は、すぐそこまで、きていたハズだった。


 が、しかしである。


土壇場になって彼女と交渉炸裂。性交渉はお預け。
 

 送り狼という魔の手から解放され、何事もなく家路に着くことになった彼女。


行き先を失ったタクシー。

送り狼に成り損なった自分。

電車は走っていない。


というワケで、

タクシーの次なる行き先を自宅に設定する自分。

 
 虚しさとタクシーのメーターだけがつもる。

 あまりのやるせなさに、タクシーの運ちゃんに声をかける。

 「お持ち帰り、失敗しちゃいましたよ。」

 「そうみたいだね・・」

 自宅に着くまで、タクシーの運ちゃんと語りつくした。

 逃した魚が、自分にとってどれだけ大きいか。

 あのとき、キメゼリフは何がよかったか。

 などなど。


 高速を乗り継ぎ、自宅に着いたときは、朝日が今にでも姿を現そうとしていた。

 
 タクシーの運ちゃんに、くだらない話に付き合ってくれたことに対してお礼を言った。


 そして予想外の出費であるタクシー代を精算しようとしたとき、


 「今日は予定外のタクシー代だろ。
 
  高い授業料を既に払ったんだから、
  
  高速代はいらないよ。」
 

 ルームミラーを通してうつるタクシーの運ちゃんの横顔が、
 
 自分にはしぶく見えた。


 自分はもう一度だけ、お礼を言い、タクシーを降りた。


 そして、湿っぽい自分のベットで眠りについた。

 
  


 

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